足の痛み。


 右足の甲が痛い。10月の上旬頃から痛みがずっと続いている。

 それは歩くになんの支障もない痛みで、日頃はとくに気にもならないが、正座すると甲の外側が突っ張って痛い。普通にしていれば、触っても痛くない。変な痛みです。

 寒くなりはじめてサンダルから厚底つっかけに履き替えて、足でも捻ったのだろうか。ある日、かすかな痛みに気づいた。それから数日後、そのあたりを自転車のペダルでしこたま打って以来、絶対にそこに痛みがあることを確信したのでした。

 右足が正座できないので、ちゃぶ台での食事が不便です。長い座布団を海苔巻き状に丸め、その上にもう一枚座布団をのせて馬乗り座りをしています。腰にも優しい座り方で、気に入っているのですが、お客様が来た日は座布団を独り占めにできず、片膝立ててお行儀悪い。

 やはり10月上旬、「突如病気になる犬」をレポートしたテレビ番組を見た。オーストラリアで繁殖を禁止されたその犬の子孫が、いま日本に入ってきていて、血統書付きで売買されている──という話。繁殖禁止の訳は、「二歳になると原因不明の病気になり、死に至るという遺伝子を持っている」からとレポーターは言っていた。今のところ治療方法もなく、愛犬の介護に疲れ切っていた飼い主が、「犬が持っていた血統書はなんだったのだ」と怒っていた。

 母方のわたしの祖母は、ある日階段から落ちて足をケガして以来、足が不自由になった。外出することがほとんどなくなり、家の縁側で縫い物していた祖母の姿しか思い出せない。元々足が悪くて階段から落ちたのか、その辺の事情はよく知らない。

 三年ほど前、母の歩く姿を見て気になった。片方の足を少し引きずるようにして歩いている。そういえば何年か前、庭で転んで膝を打ち、膝小僧に水がたまったと聞いた。病院恐怖症の母は、「切って水を抜きましょう」の医者の言葉に怯え、その対抗策としてひたすら膝小僧をさすり、「水がなくなりますように」と祈った、と。

 したら、「水がなくなったから切らなくていい」と医者に言われたと喜んでいたが、本当だったのだろうか? まだ溜まっているんじゃないの? と疑いたくなる母の普段の素行です。

 生を受けたその時からカウントダウンが始まっていて、実は、わたしがこのあたりで足に痛みを覚えることは決まっていたのでは? と思うことがある。わたしの遺伝子に書き込まれているこの痛み。チッチッチッチッチッチッチ……わたしのカラダの中で音をたてている時限爆弾のようなその数値は「10月上旬痛む」に設定されていた。もしかしたらそれを「運命」と呼んできたのだろうか──。

 いつまでもつづく足の痛み。

 治りが遅くなっただけだ──というのがクラマエの弁です。悔しいけど、たぶんそうなんだろうな。でも、運命って遺伝子のことだったのだろうか?