20世紀に生まれた元少年少女たちへ


──ヒラノが死んだよ。今朝だ。さっきヤナギから電話があったんだ。丈夫そうだったけどなぁ。一応、知らせておこうと思って、さ。

 聞き覚えのある声じゃなかったけれど、シオザワと名のったオトコが、電話口でわたしにそう言った。
 名前の持ち主の顔は、しっかりと思い浮かぶ。どんなキャラクターだったのかも。ヒラノ君のこともヤナギ君のことも、電話のオトコはシオザワじゃなくってシオだったことも。小学生のときの同級生たちだ。

──お盆に同級会をやるんだけど、フクイ先生、もうトシだからさぁ、顔見せてやってくれないか?

 昨年、「8月14日に同級会をする」という連絡をもらっていたが、お盆に帰省したくない訳があって、参加しなかった。今どき小学校の同級会なんて、ちょっと遥か昔すぎるが、わたしたち6年4組はフクイ先生が大好きだった。いっつもびんぼークジを引かされてくる担任だったけど、フクイ先生が好きだったから、1年4組にいた彼の娘もクラス全員で可愛がった。

 友人の母親から譲り受けた『20世紀少年』というマンガを、最近寝る前に読んでいる。まだ連載中で完結していないマンガなので、単行本分を読み切ってしまうのがもったいなくって、少しずつ読んでいる。小学校の同級生だった主人公たち、彼らが作った隠れ家が秘密基地だった頃、そこで世界征服を謀ろうとする悪と戦う未来を思い描いていた。少年たちは成長し、たぶん三十代後半になって、突然に仲間の死を新聞で知る。そこから事件は大きく仲間の中に入っていった、そんな物語かな。

 いろんなキャラクターの少年たち、それは物語に絶対必要不可欠のキャラクターを持った登場人物だけど、わたしたち6年4組にもそういう子たちがちゃんとそろっていた。ヒラノ君とヤナギ君はカラダがでかくてちょっと乱暴者で、だからもちろん運動もできて、成績は下の方だったけど4組の色を作っていた。彼らと両翼をなすように、もうひとりのボスは級長のミネザワ君で、正義感が強くて勉強もできて、そうだスポーツも得意だった。『20世紀少年』の少年たちが事件に巻き込まれ出したのと同じ年齢の頃、大きな組織と戦っている……という噂を聞いたことがあるが、真相は知らない。

──マチダも死んじゃったし。風邪引いたって九月に言ってて、それが風邪じゃなかったんだ。フクイ先生のためにって同級会やったけど。今度こっち来たら声かけなよ、集まるよ。会えるときに会っとかないとなぁ。

 わたしは小学校を卒業すると女子校の中学校に入れられてしまったので、そのまま公立の中学に進んだ6年4組の仲間とは疎遠でいた。軌道を外れた惑星のような思いをずっと持ち続けていた。それが昨年、突然に呼び出しがかかった。すごく嬉しかったけど、参加しなかった。

『20世紀少年』だと、ここから事件が始まる。だけど、今のところ事件が起きるようでも巻き込まれる様子もない。
「知らせておかないとね」っていうの、ヒラノ君へのかなり大きな花束かな。
「チヨダ城に集まれ」なんていう指令を待つわたしがいる。途中復帰のわたしの役割は何なんだろう?