足が痛い。


 何年かぶりに、原宿に行った。
 友人のライブを聴きにいったのですが、場所は明治神宮前から徒歩五分。訳があって最寄り駅から離れた表参道駅から、ヘコヘコ歩いた。ヘコヘコの訳は、履いていたサンダルが足に合わなかったせいで、こんなに歩く予定なんてなかったのに……しくしく。

 表参道周辺は歩いたことだってあるし、バイクで走っていた時期もあって知らないところじゃないのに、地下鉄から地上に出てきたそこは、まるっきり見たことのない場所になっておりました。
 しかたがない、「原宿ってどっちですか?」と訊いて歩き出したのですが、いつまでたっても確信が持てない。しばらく歩いてから、今度は「ラフォーレ原宿ってどっちですか?」と訊いた。間違っていなかった。ようやくキティーランドを見つけて、ひと安心。

 原宿、土曜のまだ夜浅い7時ごろ、こんなにたくさんの人を観るのは、いつ以来でしょう? それはまるでテレビで観る球技場の観客席のようでした。わたしがこんなにも足が痛くて苦しみつつ歩いているのに、さっきまでのわたしたちの不安な状況なんて違う次元の違う国のことのようです。
 知らないでしょうけど、わたしたちはあんたらの足の下で、かなり困ってたのよ。
 原宿はふしぎな空間でした。

 土曜日の夕方、めったに練馬を離れることなんてなく、ましてや日比谷やら霞ヶ関なんてとこもほとんど縁がないところの地下で、わたしは東京の地上を心配しておりました。
 地下鉄を乗り換え、日比谷を走り出した電車が、ホームの途中で停まりました。間もなくアナウンスがあって地震があったことを知ったのですが、震度5だったというのに何も感じませんでした。電車はそのまま20分ほど停まり、徐行運転で次の駅まで進み、ドアが開きました。

「危険度がトップ(このあたりの言い回しはあいまいですが)になりましたので、線路の安全状況の確認中です」のアナウンスと「16時35分に震度5地震がありました。全線不通です」のアナウンスがくり返された。わたしが知る限り1時間半の間、この2種類のみで、バージョンアップされることも、更新されることもありませんでした。
 幸いなことにわたしがいた駅は土曜の夕方で乗客も少なく、新聞の記事にあったような混雑も疲労もありませんでした。
 ただ、乗客が少ないのに冷房がガンガンに効いていて、寒くて車内に長く座っていられないのが苦痛でありました。

 車掌に「地上はどうなっているんでしょう?」と訊いたところ、「上は地下と違ってがんがんに揺れたと思いますよ」と。でもそれ以上のことは全線不通だってことしかわからない。
 地下鉄千代田線霞ヶ関ではパニックもなく車掌に食ってかかる乗客もおらず、静かに状況を見守る人々ばかり。静かなわりには事態が進展しない。もしかしたら、地上では棚からたくさんのものが落ちてガラス窓も割れたり、クルマが玉突きになっていたり、大騒ぎになってたりしないだろうか? ちょっと心配です。
 それにわたしには6時開演のライブの予定があって、お困りです。今までの体験からいくと、こういう状況を諦めてこの場を去ると間もなく電車が動き出す。そうだったことが2度ほどあったので、じっと待ちました。読む本もなく、車内の中吊り広告を読みつつ、1時間半待ちました。
 車掌は、「たぶんねぇ、まだまだかかりますよ。なにしろ危険度がトップになって停まったんだから。線路だって徒歩点検してるし」

 改札口の車掌に、「たぶん乗れませんよ。でも、乗れなかったらまた戻ってきていいですよ」と言われ、地上に出て渋谷行きのバス停に向かいました。彼の言ったとおり、満杯弱のバスは、虎ノ門のバス停に停まることなく、走り過ぎ去ります。まだ満杯じゃないのにあれ以上乗せないのは、安全のためなんでしょうね。わかっているけど、あと10人は乗れるのに……と恨みました。
「相乗りしましょう」と行きずりのオンナ4人結束を固めましたが、タクシーも止まりません。バスとタクシーの間で揺れ動くオバ乙女心を知ってか、地下鉄の入口にざわめきが。

 それならばっ!と霞ヶ関に戻ったら、千代田線はまだで、銀座線は動き出したと。霞ヶ関に銀座線は乗り入れていません。さっきの虎ノ門にお戻り。
 は〜っ、だわ。
 わたしは足が痛い。今日はちょっとヒールな尖った爪先のサンダル履きです。こんなに歩くつもりのない日です。ため息の日です。

 ライブは半分ぐらいまで進んでいて、新しいアルバム(CDでもそういう言い方するのかな?)の曲はほとんど聴けませんでした。後半の曲は、わたしが二十代のころの曲がメインで、その頃の彼女やわたし、そして周辺の仲間、青々しかった情景がリアルに蘇ってきて、二十年、二十数年の過ぎ去った月日はまだこれからも続くのですが、十年後、どんな気持ちで彼女の曲を聴くのでしょう?
 そして、最後に、誰がわたしたちのマンガを引き継ぐことになるのだろう? なんてことが気になってしまいました。

 ライブが終わっても足は痛く、わたしはヘコヘコ歩きで練馬に帰りました。