オトナ買い。


 強靱なカラダの持ち主ではないが、眠るに贅沢を要求しないカラダをしている。日頃の鍛錬の賜物だと思う。
 それだけじゃない、もうひとつ。20代の寝ても覚めても眠たい年頃における慢性睡眠不足の反動が、後押しをしてるんじゃないかな。1日の睡眠時間が3〜4時間で、週のトータル睡眠時間が10時間程度ってことがざらだったので、カラダが常に眠るを渇望しているんじゃないのだろうか。

 メインである日頃の鍛錬は、せんべい布団で眠ることだ。これならインドの2等寝台だって平気。安宿の体操のマット級の布団でも平気。もちろんキャンプ場も平気。
 だけど、5、6年前に布団の打ち直しをやった。それはたぶん学生時代から使っていたモノなので、布団屋に出すのがかなり恥ずかしかったが、捨てるのも忍びないし……で、費用が3万円ほどかかった。新しい布団が買えたんじゃないかと思ったが、打ち直した布団はとても気持ちよく、前言はすぐに吹っ飛ばした。

 その布団が、先日の風邪でヘビー級の重さになってしまった。わたしは3日、クラマエは4日も高熱が続き、カラダがものすごい量の汗を出したからだ。カラダは高熱を発しているのに、わたしの背中はとても寒かった。それでわたしは布団の上にダウンジャケットとダウンベストを敷いて寝た。背中の寒さが和らぎ、かなり楽になった。掛け布団じゃなく、敷き布団にダウン物があったら、きっとヘブンなんだろうな……とズキズキするアタマで想像した。
 いつか、ダウンの敷き布団で眠りたい。
 クラマエに「ダウンの寝袋を使うか?」と言われたが、それはココロが強く拒絶した。

 そういえば、今回の南インドだが、16年前に泊まったチェンナイのブロードランド・ロッジに懐かしくって宿をとったが、翌日には宿をかえた。前回は屋上階の広い部屋に泊まれたが、今回は狭くて湿気ったコルカタのサダルストリート級の部屋しか空いてなく、ココロとカラダがもう少し快適な布団を要求したからだ。替えた宿はホットシャワー・テレビ付き、大きな窓と広い部屋で420ルピー、1,100円ほどだ。ちなみにブロードランドは270ルピーだった。
 南インドはこれくらいのお金を出せると、宿事情がかなり快適になっていて、そういう宿には家族連れやちょっと上品そうな夫婦者の宿泊客が多く泊まっている。

 今回の風邪はとにかく熱が出た。熱が下がっても、病み上がりで仕事するカラダに、頭痛が何日も残ってつろうございました。それで、快復したカラダでチャリを飛ばして布団売場に駆けつけ、清水の舞台からバンジージャンプ級のオトナ買いをしてしまった。買ったのは敷き布団である。もちろん、まだダウンの敷き布団は遥か彼方のおとぎ話である。
 新しい布団は綿から羊毛にグレードアップさせた。お店の人は、「外に干さなくっても大丈夫」と言ったが、単なる売り言葉であるのだろうが、日曜日にしか布団が干せない身には、優しい布団の気がする。
 で、寝心地は……ものすごく快適です。こんなのに寝ていると安宿の布団がつらくなりそうな気もするが、わたしならつらくっても眠れないことは、きっとない。インドの2等寝台だって絶対大丈夫だろうし、まだ寝たことのない中国の硬臥・軟臥寝台だが、最近の中国の発展ぶりを思えば……。そうだ、チベットを走る鉄道が完成したなら、どんな寝台車で眠れるのか、たまには鍛錬した方がいいのだろうか。