風邪から復活。


 朝、いつものように風呂にはいって、それから朝飯の用意をするつもりでしたが、気力がわかず、また布団に戻ってしまった。ちょっとのつもりがずるずると昼まで寝てしまった。
 前日と前々日に眼科医へ行って長居させられたので、風邪をもらってきてしまったのかもしれません。クラマエには外から帰ってきたらうがいをしないからだ……と言われて、だけど今までずっとしないで生きてきて大丈夫だったのに……なんとも不覚な事態になってしまった。

 ちなみに、わたしは朝風呂党です。
 夜は疲れて風呂にはいるより、夕食後はテレビとちゃぶ台の前でごろごろする方を選びたい。
 以前、うちにやってきた香港人(女性)に、「汚いまま寝るのはカラダに良くない。風呂に入れ風呂に入れ風呂に入れ……」を連呼されて渋々入ったけど、よそんちならともかく、自分ちでは自分の好きなやり方で生きていきたい、と思う。「カラダを温めた方がよく眠れる」とも言われたけど、わたしは横になれば寝たくなくてもすぐに眠れて、眠れないで悩んだことは、たぶん片手で数えられるほどしか経験したことない。

 大仰に昼過ぎ出社をして早めの帰宅をして、すぐに布団にもぐった。目の奥がズキズキ痛む。昨日の医者は眼圧は高くないって言ってたけど、レーザーで開けた穴もちゃんと開いてるって言ってたけど……この目の奥のその先のアタマの中がズキズキ痛むのはなぜ? 本当に風邪なのだろうか、もしかして目が原因なのか?
 どんどんアタマが痛くなって、こういう時は寝てしまうにかぎる。こんなにズキズキするアタマを抱えてよく眠れるもんだってわれながら感心するほどに、よく眠れた。ズキズキ二日目の土曜日もほぼ一日中、痛いアタマを抱えて眠った。市販の風邪薬を飲むために、ときどき目を覚ました。

 日曜日、アタマがまだズキズキする。これはぜったいに目のせいじゃないことを確信し、日曜日もやっている病院を探した。病院で体温を測ったら36.5度だった。そんなはずはない。さっきまでズキズキしてたんだけど。看護婦さんに「解熱剤を飲まれましたか?」と訊かれ、そういえば40分ほど前に飲んだな。

 医者にどのくらい熱があったのか訊かれて、「うちには体温計がないので確かではないが、39度ほどだと思う」と答えた。医者は信じてないようだったけど、わたしはタイのコ・サムイで腸チフスをやったときに39度とそれ以上の高熱の境を体験していて、38度以下ならわたしは騒がない。38.5度からアタマがものすごくズキズキし出し、39.5度を越えるとズキズキが気にならないくらいボーとしてくるというのを三週間ほどやってるので……というのは、初対面の医者にまで説明することじゃないので口を閉じた。面白がってくれそうもない医者のようだったし。
 以前、他の病院で書いた病歴覧に腸チフスデング熱を面白がってくれた医者がいて、「海外で発病して良かったね」と慰められたけど。彼が「日本の隔離病棟は悲惨だからね」と言って、看護婦も頷いていた。ちなみに日本で腸チフスを発病した友人は「すごく悲しい扱いを受けた」とやっぱり言っていた。

 鼻の中を綿棒でぐりぐりやって検査をして、インフルエンザじゃないってことで、ただの風邪だと言われた。
 体温計を買ってから帰宅して、また眠れた。もう風邪の峠は越えていて、ズキズキはないが37.5度くらい。病院で処方された風邪薬が6種類。抗生物質以外は症状が良くなれば飲まなくていいらしいが、こんなにたくさんの薬を目の前にして水を手にすると、気分は一気に病人になる。
 わたしの母は自分が病院嫌いだったせいか、子どもにも薬と病院には近寄らせなかった。食べて眠ればたいていの病気は治るの信念の元で育てられた。それで薬を持った同級生に憧れた。人にじゃなく、その「薬持ち」にである。ある冬、水飲み場で友人の龍角散を分けてもらって飲んだら、小学校3、4年生の舌には想像を絶する苦さで、「薬持ちの人生」への憧れは、口の中の龍角散ともども空中に吹っ飛んだ。

 復活したカラダで、「旅行人冬号」の発送を終えました。来週、みなさまのお手元に届きます。では、お楽しみに。