待ってる。

 今年も来ないのかな?

 ここ数年、ずっと待っている。ふ〜、未だ猫さえも来ない。今年は春先にちょっとだけ(1メートルほど)うちに足を踏み入れて様子をうかがっている猫の姿を見たが、すぐに出て行った。なにが気に入らなかったんだろう。気になる。近所に大きなノラ猫一族(みんな同じ柄)が棲みついている。だけど、うちはテリトリー外らしく、一匹も寄りつかない。事務所の行き帰りに、あちこちの猫に手をさしだすが、すぐに逃げられる。素手だってのが魅力ないのね、とつみれを持ち歩いたが、がさごそ取り出している間に逃げられ、賞味期限が切れて臭くなってやめた。
 猫はいい。これは一年中、いつだってシーズンだから。

 モンダイはポピーだ。
 ここ数年、ポピーが来るのを待っている。家と事務所の間の道路脇のそこここでポピーを見かける。雑草のように道端で咲くポピーが、夏の終わりのコスモスのように、春から今頃にかけて吹く風に揺れている。もちろん、よその家の庭でも見るが、うちの近所は圧倒的に路上バージョンが多い。
 むかしは好きでも嫌いでもなく、「ひ弱そうな花」くらいの認識しかなかったが、練馬区で見るポピーはちょっと違う。毎日歩く道の脇とか、塀の隙間にタンポポのように根を張る姿にしたたかさと逞しさを感じる。あの儚げなそよぎ具合は、騙しだろか。なんのために?
 近所の畑の端に、コスモスに似た風体のオレンジ色の花が毎年咲く。そのあたりには捨てられた野菜の山があって、そこで菜の花が咲く。急な暑さと寒さで、ブロッコリーとカリフラワーが堅くなったり花が咲いたりで、捨てられている。その向こうに生えてるねぎ坊主が好きだ。練馬の風に吹かれてアタマをぐらぐら揺らす姿が、愛嬌があっていい。そうだ、坊主の密度がちょっと薄いニラ坊主も好きだ。

 去年の冬の終わり、道の脇にノースポールを植えた。マーガレットの丈を低くしたような、菊科の花だ。夏を越え秋を越え冬を越えて、去年と同じ場所で今年も花が咲いた。そして今年は、そこから5メートルほど離れたドクダミとシダとクマザサしか生えてなかったところに白と黄色のその花を見つけた。生い茂るパセリ(うちのは冬を越えて茎が親指ほどもある)の中にも、その白と黄色のノースポールを見つけた。種を蒔いたわけでも株分けをしたんでもないのに。
 ようこそ、ノースポール!

 だから、だれが植えたんでもないポピーが、うちにもやってこないかとここ数年ずっと待っている。4、5年前にポピーの種を蒔いたが、芽は出なかった。ポピーは隙間が好きなんだろうか? それなら石を敷いてそれとなく隙間を作っておくが。作為的なのは、嫌いですか?
 ブロック塀の根元から出ているポピーを切っている人がいた。そのポピーはわたしのじゃないけど、持って行かないで。もしかして、あなたはその塀の持ち主ですか? そのポピーとうちの間は徒歩20分の距離がありますが、わたしは待っているのだ。ポピーがうちにやってくるのを。うちにいちばんのりするポピーはどこからやってくるのでしょう?