よくある、ことらしい。

 江利チエミさんが48歳、美空ひばりさんは52歳、石原裕次郎さんも53歳あたりだったらしい。これは最近知った衝撃的な事実で、マイケル・ジャクソンさんは50歳で逝った。


 薄々気づいていたんだけれど、50歳あたりに目には見えない山がある。
 そんな……気がする。


 記憶の中の彼ら(マイケル・ジャクソンを除いて)は、かなりおばさんとおじさんでお亡くなりになったと思っていたのに、わたしの今日がその渦中とは。で、驚いたのでした。この頃はニュースに聞く訃報に、しみじみとさせられる。訃報が増えたんじゃないと思う。自分がその近辺の年齢にいて、日常の中に「死」がしみ込んできてリアルになったせいだ。


 父方の祖母は30歳代で、祖父はたぶん60歳ぐらいで逝った。叔父も定年後の生活を楽しみにしていたのに、その2か月前の真夜中、「お腹が痛いっ!」と言って突然に逝った。そんな血を引くわたしだけれど、数年前にその山、ハーフセンチュリーを越えた。その数年前、同い年だった友人は山を越さずに突然に逝った。その一週間前、わたしは友人の住むマンションの足元の道を歩き、来週もこの道を歩くんだから立ち寄るのは次回にしよう。そんなことを口にした矢先のことで、間に合わなかった。


 4つの季節をワンセットにした耐用年数。同じメーカーで同じ型番でも当たりとか外れがあるように、家電にたとえるのは不謹慎だけど、人にもあるのだろうか? 生き方が耐用年数を導くのか? それで長けりゃ当たりとでもいうのだろうか?


 1992年に買ったテレビを今も見ている。よその家で見る画面の中の色とだいぶ違うことは気づいているけど、比べて見るコトなんてありえないので、この色でいい。時々「青色のユニフォームの……」とかアナウンスされても、うちの画面には青色のユニフォームで活躍する選手なんていない。その程度の不便なら推し量れるのでかまわない。生きていてくれさえすれば。

 2001年から使い続けているガスコンロの隅が腐食している。3、4年前から気づいているが、未だかつてガスコンロを取り替えねばならないまで使い切ったことがない。たいてい壊れる前に引っ越したり、新居に合わせて買い換えねばならなかった人生だったから。どんな風に、取り替え時の合図をしてくれるのだろう?
 しかし、うちのはちょと早すぎやしないだろうか? 3年前といったら、実務5年だよ。こんなものなのかな? 買い換えようとしたら同じ商品が十数万円で、待ったがかかった。ひと月ほど前には火が出てくる部分が少し傾いてもいることにも気づいてしまったんだけど、8年半のうちかなりお休み期間もあげたのに、そんなもんなの?


 郵便局に行った帰り、救急車がわたしを追い越していった。追いついてしまうと人だかりがあって、歩道に大きく血が付いていた。白のストライプの入ったジャージのズボンが横たわっていて、覆い被さるように介抱する人と遠巻きに様子を見る人、わたしは足がすくんで彼らの脇を通り抜けられなかった。非情にも直角に進路をとり、車道を歩いて逃げてきた。
 血は苦手だ。
 翌日、好奇心が後引くので現場近くの店の人に事件の詳細を訊くと、「さぁ〜? わたし、昨日はお休みだったから」と事件の詳細は未だ不明。そして「自転車の衝突事故かしら、よくあるから」といなされてしまった。


 よくあるんだ、この歩道。


 そこよりもうちょっと離れた店でも探ってみたが、「さぁ〜? 昨日のは知らないけど、数日前に店の前で自転車の衝突事故があったのよ」と、それでまた「よくあるから」と言われてしまった。

 よくあることなんだ、この歩道では。


 大穴馬券の当たりとか宝くじの当たりとかはぜんぜん気配はないけれど、泥棒も殺人も事故も、なんだか身近なことになった。気のせいだろうか?