夜明け早々。

 訳あって、早朝の山手線に乗った。池袋を6時6分発、上野方面行きだ。最初に乗った西武池袋線は5時33分発だった。

 今朝のわたしは、日常とはかけ離れたところにいる。通常なら、このあたりの時間で一度目をさまし、今朝は何時に起きたらいいんだろう? とうすらぼんやりしたアタマで考えてるころだ。あるいは、トイレタイムかな。
 そんなことぐたぐたしているこの時間、わたしの布団の外では、もうこんなにも人がうごめいているんだ。発見の朝だ。

 で、この朝は明けたばかりの空を背に、山手線車中で『アフターダーク』なんぞを読んでいた。気づくと隣りに幼稚園児なら年長組、小学生なら一年生くらいの女の子が座っていて、膝の上にノートを広げてなにやら書き込んでいる。横目で覗くと、漢字のお勉強だ。宿題をやってなくって、登校前の車中でやってるのかと、我が身に照らして想像した。
 が、違う。
 わたしが乗ったのは6時6分発の山手線。いつ隣りに座ったのか気づかなかったが、東京駅で降りるにはまだ途中駅がいくつもある。東京駅には6時29分着。その間のできごとだ。

 不思議だ。何してるんだ?

 もう『アフターダーク』どころじゃない。漢字ノートには「めがひかる」とか「みのまわり」とかマス目の行間に手書きの平仮名があって、それを漢字にしていたのだ。
「そうじゃないわ、かいじょうは海の上よ」
 アタマの上で女性の声がして、目だけで見上げると、ふ〜ん、お母さんだな。

 濃紺のブレザーとスカート、鍔のある帽子をかぶっていた女の子。こんなに早くにどこまで行くのだろう? 彼女の服装からすると遠足日なんかの特別な日じゃなく、通常の水曜日の登校みたいなんだけどな。こんな早朝登校を毎日の日課にしているのだろうか?
 娘の前に立つお母さんも、お化粧ともどもオシャレな身なりだ。黒のスパッツの足首あたりにレースが付いている。上も黒のワンピースなんだが、襟元の白いフリルが若めを主張している。彼女は何時に起きて化粧をし、子どもに朝ご飯を食べさせて、お弁当なんかも持たせているのかなぁ?
 ちなみに、今朝のわたしは4時45分に起きて、顔を洗っただけで何も食べずに5時10分頃に家を出た。トイレに行きたくなって途中下車したんで2本くらい電車をロスして、この時間の山手線に乗っている。
 その後、母娘も東京駅で降りたが、行くへは知らず。
 勝手ながら想像してしまったんだが、お父さんはこの時間、どーしてるんだろう? 彼ももう出勤途上にあるんだろうか?

 ふ〜、本日はわたしの想像を超える世界のひとつを見ちゃったようだな。