新しい花の正体。

 日曜日だというのに、朝から不快。

 風邪気味でも寝不足でもない。理由がわからなくって、よけいに気分の悪さが増してく。なぜなんだ・・・。で、朝飯を食べ終えて歯を磨いているところで、ようやく訳がわかった。
 夢見が悪かったんだ。夢の中で、歯がボロボロ抜けた。そういえば夢の中では歯がザクロの実くらい大量にあって、次々と抜けてゆくとても気分が悪い感触があった。

 子どもの頃に「歯の抜ける夢は凶事」、「ヘビは吉事」で、夢の中でヘビとかヘビの抜け殻のあった辺りにお金が埋まってる、という話を聞かされてきた。たぶんそのせいだ。

 子どもの頃に埋め込まれたそういうことは、意外と尾を引く。だから、気をつけてくれたまえ、世のお母さん&お父さん。
 そんなことの結果、わたしは今も逆さ水は気持ち悪い。ナベの中の作り置きの冷たいだし汁に追加の温かいだし汁を合体させるに、どーしましょう? と台所で立ち往生するのだ。

 いま住んでいる家は、トイレと風呂の脱衣室が兼用、というか同居している。最初はかなり抵抗があったが、しょうがないことなので、いまはココロの方に妥協させた。
 子どもの頃、裸でトイレに入ると「トイレの神様に失礼だ」と怒られた。たまにあることだが、風呂に入っててトイレに行きたくなったら、いちいち服を着直さなくてはならない。家の中には八百万の神様がいるわけだから、失礼なことをすべきじゃないのはトイレだけじゃないんだが、まあ、とりあえず。

 葬式のときの線香は1本だけ。複数の線香を立てると道に迷って成仏できない、とも言われた。わたしの母はご近所さんに果物や野菜をおすそ分けするときなども、四の数字を嫌って、もうひとつ実が熟れるまで待ってる。わたしにもあれこれ言うんだが、どんなとき四を使っていいやら悪いのやら、最近は悲しいほどに覚えられなくて、どーだったかな? と考え込んで気分の悪さだけ残る。

 子どもの頃から言われていたことで、「夜に花を活けてはダメ」と「花瓶にあとから花を足してはダメ」がある。これらの訳はずっと、花のために良くないことだと思ってきた。たぶん前者は、そうなんだと思う。
 が、後者の本当の理由を最近ひょんなことで知って、ちょっと驚いている。たいしたことじゃないんだけど、自分がずっと信じていたことを否定というか覆されて、ぜーんぜん違ったんだ、という驚いたにすぎないんだけど。
 母が「△▽(孫です)がお墓にオシャレな花を挿してくれるんだけど、前の花につぎ足すんだよね。困ったなぁ。お小遣いで花を買ってくれるのは嬉しいんだけどね」とため息つくんで、その深いわけを訊ねてみると。

 その新しい花を追加するというのは、彼女くらいの年齢のひとには「後家さん」を意味しているようだ。
 えっ? 新しい花の追加は「花に良くない」んじゃなくって「後家さんがはいる」の象徴だったってことですかい? 後家さんが入るのはときに目出度いこともあろうが、彼女にとっては「妻が死ぬ」「妻が家を出る」を意味していたようだ。

 四十数年ぶりの知った真実でした。