地上のマーメイド

 早くて早くて、鈍足のわたしは追いつけません。というか、置いてきぼりですな、まったくもって。

 正月に起きた事件の後始末は未知の世界で、う〜む、と眉間にしわを寄せているまに、おやまぁもう3月が終わるじゃありませんか。あと4〜5回ため息ついて空を見上げたら、もう今年が終わるってことになってやしないか、今から心配だ。
 だってオソージガカリさんの運転でホームセンターに行ったのが、昨年12月の半ばで、あれから1カ月くらいしか経ってない気分だが、世間はそうじゃないらしい。あの日偶然に見つけたダチョウ牧場で、ダチョウ肉をゲットする計画は宙に浮いたままだ。

 バカになってもいい、アホへの進行が早まってもいいと手に入れたナビは、それはまるでお姫様としての人生を地上を歩く足と引き替えに手放してしまったマーメイドのようで、キケンと背中合わせの人生を歩むことになってしまった彼女だが、わたしのもそれに似ているのだろうか?
 まあ、それはいい。面倒なのは、比較的ご近所さんで、しかも行きつけのところにでさえ、ナビなしで行って迷ってしまう現実だ。

 そもそもクルマにナビを付けようとしたら、友人に「バカになる」と言われていた。バカになろうがアホになろうが、わたしもオソージガカリさんも方向音痴だし、わたしなんか地図を理解するのが遅いし、それに老眼になってきちゃったし、天秤にかければナビ付きの勝ちってことになったのだ。
 その日、オトナの遊園地であるホームセンターにお買い物に行った。バカとセットで手に入れたナビだが、さすがの我々もどこでもかしこでもナビを使ってお出かけしているわけじゃない。行きつけのご近所のホームセンターだったので、ナビなしで行ったのだが、途中から未知の世界に突入してしまった。

 ちょっと来ないあいだに、見知らぬ店が増えたねぇ。増えたどころじゃないよ、ここ知らないよ、この風景──ホームセンターを通りこしていた。ナビなしで行って、いつの間にか店を通り過ぎて、見知らぬ風景に気づくのにずいぶんと時間を要した。
 で、ホームセンターで買い物をすませ帰宅。なぜ、左折しないの?──オソージガカリさんは言う。ナビがなにも言わなかったよ。
 ナビなしで帰ってずんずん見知らぬ地に入り込み、迷ったことに気づいてから帰宅モードをオン。したら、以前、テレビで知ったダチョウ牧場の看板を見つけたのは、ラッキーだったろうか。
 ダチョウの肉とか卵製品が売っているらしいが、今回はパス。年も迫り、今日は忙しいのだ・・・からもう三月半がたったというのか?
 
 信じたくないのは、どっちの事件だ。