野原に白い花を。

 春先に採れるキャベツが好きだ。それで近所のなじみの畑でひと月ほど前に「そろそろどうですか?」って訊いて、「初物だよ」っていわれて、時期早々だったキャベツをひとつだけわけてもらった。甘くて柔らかくて、毎年そこの春キャベツを楽しみにしている。
 欲ばりなので、冷蔵庫の野菜室をキャベツが陣取る春だ。
 今年も本格的に出荷できるキャベツに育つまで待っていたんだが、先週末に「今年はもうこれ以上は育たない・・・」と言って畑のお母さんが哀しそうだった。この春の寒さが響いて、うまく結球しないんだそうだ。実家の母も「春が寒くて、タマネギがいつもの半分しか大きくならない・・・」と嘆いていた。

 この春が寒くて世間の野菜はダメージを受けているようだが、うちの庭の雑草は寒さに負けやしない。ドクダミやらタンポポ系やら、ぺんぺん草、通称トリノエサ、はこべみたいなのやらが総出動だ。
「野原のような庭」をイメージしているんだから、雑草の出現にとやかくいえないが、すごいんだ。今年も初お目見えの雑草があった。毎年、少しずつ雑草の種類が増えている。
 ここに越してきたばかりの年、「黄色の花があったらいいな・・・」と向かいの空き地からタンポポをふた株(っていうんだろうか?)移植したら、もう毎年毎年、引っこ抜くのに苦労してる。あれの子孫ばかりじゃないと思うが、すごいんだ大量発生で。
 レンゲ畑に憧れてレンゲの種をばらまいた年があったけど、ひとつも花を見ていない。鳥が食べちゃったんだろうか? ずっと昔、ベランダでプランターにミントの種を蒔いた。そして出てきた芽にせっせと水をやっていたら、母が「トリノエサになにやってるんだ?」ということがあって以来、わたしはその雑草をトリノエサって呼んでいる。

 母と山にいった。
「鳥も通わぬところだ」と母が呼ぶその山は雑草だらけで、小学生のときに行って以来のその山の探索を楽しんだ。クルマに戻ると、母に厳しくカラダをチェックされ、服に付いた草をしっかり落とせと言う。山の雑草を家に連れて行かれたらたまらんってことだった。
 うちに増える雑草は夏の勝手にキャンプで連れてこられたモノやら、山梨とか益子とか遊びに行った先で服に絡みついたモノなんだろうな。毎年種類が増える。今年も見慣れぬ草をひとつ見つけた。

 通勤途中のいくつもある空き地のひとつにユンボが入っていた。そこは春になると白い花が一面に咲いて、春風にゆらゆら揺れるその姿を夜の街灯で見ると、昼の姿とぜーんぜん違って妖しくって好きだったのに、今年で見納めなのだろうか?
 しくしく・・・だ。
 雨降る夜はもっと妖しくなって、しくしくしくしく・・・だ。
 ずっと、ひと株でいいから欲しいなぁと思っていたのに、見知らぬ人の土地だし、いっつもシャベル持って出勤するの忘れてたし、明日でいいや・・・と思っていたら、今日はもう中に入れないように囲いができていた。

 花は白と黄色が好きで、だけどタンポポの黄色はもういい。黄色の菜の花の庭にも憧れてるんだが、わたしの記憶の中の「野原」にはしろつめ草が必需品。小学校への道にはいっつも春になると空き地としろつめ草がセットだった。まだうちにはお越し下さらぬのじゃ。