あーもうひとつあった。

 今年最大のアタマ・カチンっ事。
 それは夏のはじまり頃のこと、叔母が転んで足を痛めて病院通いをした。週に一度、痛み止めの注射をうってもらって、ある日そこの医者に「パーキンソン病だ」と言われて薬を投与されて、それでも症状が治まらないと、わたしの母に傷心の電話をかけてきた。
 お年寄りの伝言ゲームは空恐ろしいもので、わたしに伝わったときには、病はアルツハイマーになっていた。パーキンソン病アルツハイマーの深刻さの度合いはわからないが、叔母に「アルツハイマーなんだって?」と電話をすると「違う、パーキンソン病だ」と暗い声で怒られた。
 彼女は叔母でありながら、頼りない姉みたいなヒトなので、そりゃぁ大変だ! その医者と話をしなくっちゃ。彼女の今後の治療計画とか今の状況を聞かなくっちゃ、と清水に住む叔母の元へクルマを飛ばした。
 なにを根拠に叔母をパーキンソン病と診断したのかを訊くと、手の震え具合だという。その他に検査をした様子はない。3種類のクスリを順に飲ませてきたが、どれも効かない。改善の様子はなく、自分にはこれ以上のうつ手はないって言うのだ。
 そうなの? それは幸い。静岡市内にパーキンソン病専門の科がある病院を知っていたので、そこへの紹介状をお願いした。
 そこからだ。彼の目がヘビになる。わたしの叔母はヘビに睨まれたカエルだ。
「お手上げだ」と言いながらも露骨に嫌みを言いだし「どーこへでも好きなところに紹介状書いてあげますよー。フジエダがいい? それともトーキョー?」
 ここで怒っちゃいかん、とオトナの対応だ。静岡市内の△▽病院だって言うてるではないか。
 数日後その△▽病院でいろいろ検査をして、出た結果はパーキンソン病の疑い全くゼロ。手の震えはただの加齢症。もう清水のあの病院へは戻りたくないと叔母は訴えたが、病院同士の取り決めなんだろうか? 叔母はあの病院へ戻された。
 カチンの二乗は、イトコである息子が、彼女が元の病院へ戻ることに賛成したことだ。病院内に掲げられた医療の許可証なんだか免許証の額を見て、そのヘビ医者を信用できるって言うんだ。それで菓子折り持って「よろしくお願いします」だとさ。
 お前は子どもの時からバカだったが、今も愚かしいヤツだ、とココロの中だけで呟いた。
 まあ、救いは叔母がその医者の元に戻らないことを選んだことだ。それで足の痛みの治療のために違う病院を探した。そして、そこでもパーキンソン病の検査を受けて「パーキンソン病の疑いなし」って言われて、ずいぶんと明るく、その前に患ったふたつの大きな病の前よりも、図々しくなったことだ。それで、明るくなりついでに、着なくなった服があったらちょうだいって言われた。
 おデブちゃんだった叔母は大きなふたつの病でかなりスリムになって、老いてからお洒落を楽しめるようになったようだ。それはそれで、幸いなり。