災難。

 盗み聞きしたんじゃないけど、電車の中で後ろに立っていた女性ふたりの会話が耳に入ってきた。だって、おばさま特有の周囲を気にしない大きな声の会話だったから。で、不愉快な日をおくることになってしまって災難だ。あー腹がたつ。
 なんでも、閉店した富士銀行跡地に早くも菜の花が咲いていて、それはそれはきれいだったそうだ。それで、その菜の花を摘んでいたら「それはわたくしたちが植えたものだからとらないで・・・云々」と若い人に言われたわ、と片方の女性が友人の女性に不満を訴えていた。
「もう花も盛りだったから、このまま空き地で枯らすのももったいないと思って摘んでいたのよ、田舎の人なのにケチくさいこと言うわね」と。
 年を重ねるということは、必ずしもオトナになっていくことでも人間ができていくことでもないんだ、ということを改めて思いました。
 先日、母が「お腹のあたりが気持ち悪い」って言うんで、病院へ行きなさいって命令すると「今月はもう二度行ったから、医者に申し訳ない」って言う。それで母の言う「申し訳ない」なんだが、医者に払っている金額が少なくって、これでは医者が可哀相だ。わたしを診ると病院が損をする───と、謎めいたことを言う。
 お人好しにも程がある。田舎者であることは否めないが、母の場合、世の中の仕組みを理解してないんじゃないか? まあ、医者から「母が払う金額が少なくても病院が損をしない訳」を解き明かされて、来週再び病院で検査を受けてくれる約束をしてくれて、わたしも安心して旅立てる。
 母は病院が嫌いで、以前も「癌検診を受ける」でドキドキして体重を落とし、結果を聞きに行くんでビクビクして体調を崩した。それでも80に近づいても「ぜ〜んぶ自前の歯」で、医者に誉められたことが自慢だ。70を前にしてからコレステロールと血圧のクスリを飲み始めたが、「この10年、そのクスリの量が変わらない」と、医者に誉められたことも自慢する。
 あんな高慢ちきなおばさまが、わたしの母じゃなくって良かった。で、締めくくった一日でした。