浅知恵。

 不安と自粛と買い走りとストレスと、見えないプレッシャーに心を痛めている人が東北に向かって祈ったり支援してがんばってるというのに、わたしの近辺では母娘ゲンカで声を嗄らしたり眠れなくなって睡眠薬飲んで騒いでいる人たちがいる。彼女らの周辺にはどんな空気が漂っているのだろう? とため息ついていた騒動がようやく着地点を見つけたところで、今度はそれによる疲労で風邪引いたり胃を荒らしている母娘だ。
 彼女らに電波は届いているのだろうか?
 わたしは?・・・というと、その日そのとき、日本にいなかったのでその揺れの大きさを知らない───と行きつけの店の主に言うと、東京が壊れるって感じて店にいた客と一緒に近所の駐車場に逃げた。あとで、実は東京に来た地震じゃなかったことを知って驚いたそうだ。
 楽しいコトしちゃ行けないムードが漂っている。お花見も「自粛しろ」と誰かさんが言っているみたい。ということは、そのあたりにあるわたしの誕生日も「自粛しろ」と言われやしまいか心配だ。
 話は突然に変わるが、ポルトガルでメガネケースを買った。オソージガカリさんに「メガネケースなんて買ったことない」って言われたが、寝るときと風呂にはいるとき以外、メガネを外さない彼には、元からそんなの必要ない。わたしだって、買ったのは初めてだ。ケースはずっとメガネのおまけだ。
 メガネというより、いつもメガネケースを探してばかりいるので、どこにあってもとにかく目立つケースを選んで、バナナ色にしていた。これならバッグの底にあったってきっと暗闇だってゴミだめにだって洗濯物の山の中にあったって、見つけやすいはずだ。
 が、しかし、今回の旅行でリスボンミュージアム売店で青いメガネケースにひと目惚れ。あばたもえくぼかも知れぬが、それはそれは美しい花柄で、16世紀トルコのタイル壁画を摸したモノ。
 ちなみに、お値段8.2ユーロ、1000円弱ですね。
 しょっちゅう触るモノなので、3週間でもう色がくすんできちゃいましたが、ステキなモノは気持ちを和ませてくれる。
 お買い物ってすごい威力だ、と今さらながら、いっとき世間の騒動に背を向けしみじみ感じ入っていたら、心に火がついてしまった。
 こんなに打ちひしがれていてばかりじゃいけない。お買い物しなくっちゃ。
 わたしにできること、それはお買い物。それはきっと日本の景気を向上させて、しいては日本の明るい未来につながるはずだ。
 行きつけの雑貨屋で母用に懐中電灯を買って、いつもの豆腐屋で豆腐を買って、いつもの魚屋でサカナを買って、今日はちょっと贅沢してあおやぎを買った。明日はそれでぬたを作ろう。
 楽しいコトしたり楽しんだりするのは不謹慎、津波に遭われた方たちに申し訳ないと沈んでばかりいては共倒れになってしまう。どうしたらいいのか? それは財布を緩めてお買い物。いつもの店でいつものように楽しく買い物していると、お店の人が喜んでくれる。まあ、いつであっても当たり前のことですが。
 実は先日、敬愛する知人のイベントで大奮発してきた。最終日の終わり間近にたどり着いたら、案の定、お客さんがひとりもいなかった。オソージガカリさんから自粛勧告が出される前に、手描きの更紗のショールを購入。
 経済は自転車操業。みんなで楽しくお買い物して、東北を日本を活性化しましょうっていう、わたしの浅知恵でありす。