夏祭り。

 つきがでたでたぁぁぁつきがぁぁぁ〜。
 近所で夏祭り中だ。
 お盆になると耳にするこの歌、わたしが夏の盆踊りに参加していた頃からだから、最低でも半世紀も歌い踊り継がれてきてるんですね。やっぱり、これじゃないと踊れないんでしょうか? 学校の歌本だって、この頃じゃ掲載されている曲が変わっているってきくけど。
 先週末はスーパーで買い物を終えて出てくると、前の交差点を御輿が右折中で、道路はクルマが数十台連なるながーい渋滞をつくっていた。交通整理のお巡りさんたちが御輿とそれ周辺の祭りの人たちに、大きな声で早く歩くことを促していたが、意に関さず(?)なのかゆっくり進行のまま。
 いーじゃないか、そんなにせっつかなくたって。救急車がそのクルマの列にいるわけじゃなし。
 祭りは見るより参加するのが楽しいと感じているが、参加から外れてもう長い。
 夏休みだからといって、特別なイベントなどない我が家にとって、母の実家の夏祭りが、休み中の一大イベントだった。わたしの家は母の実家の山間の小さな村より人口が多いというのに、祭りといったらお寺で開催される盆踊りくらいだったが、母のところでは祭りに夜店がたった。祖父母やおじさんたちからもらったお小遣いで、夜店を覗く。祭りの最後に大きく櫓を組んだ木に火を付け、燃やした。そして熾火になったところで、その上を裸足で渡る。燃えさかる火は熱く、杉の枝だったろうか、葉の付いた枝が配られ、それで顔のあたりを守って櫓が燃え、崩れていくのを見ていた。
 嘘つきが火の上を歩くと火傷するけど、正直者は火傷しないんだよって、誰かに言われた。母はいつも「渡るもんかっ!」と見るだけだった。正直者だって火傷する、とわたしは思っていた。
 だけど、渡っている人たちに「あっちっち!」と足の裏を心配している人たちはいなかった。渡る前に塩の上を歩いているところに、秘密が潜んでいるのではないかとわたしは思っていたが、真相は知らない。
 今のところに住んで10年が経つ。行きつけの魚屋豆腐屋、ドラッグストアができて、近所にも挨拶する人が増えてきて、わたしはここでおばあさんになるのかな? と想像してみが、できないな。10年前、越してきたばかりのわたしに「鳥も食わないミカンだが、食べるか?」も、ここ数年、言われてないな。彼の家の前に、最近デイサービスのクルマが止まる。ちょっともの足りんぞ、おやじぃ。
豆腐屋へ行く途中の家の軒先にいたツバメの子らが、腹を空かせて母の帰りを待っている