一方通行の標識。

 旅行人事務所のある建物の前は一方通行で、向かい側にはコインパーキングがある。そこから出庫する際、一見さんだったりすると、そこが一方通行であることを忘れて逆走するクルマがたまにある。そんな場面に遭遇すれば、わたしはそれらのクルマに「一方通行ですよ、コの字に曲がれば大通りに出られますよ」と、一応やさしく教えてあげる。
 だってずっとむかし、バイク乗りだった頃、下北沢で一方通行の出口に立つお巡りさんにキップを切られ、罰金を払った怒りの過去があるから。
 わざとじゃないんだよ───そこが一通だってこと、知らなかったんだ。立つんだったら出口じゃなくって、入口にして注意を促してほしいものだ。
 だから、わたしは気づけば教える。なのに、たまに確信犯がいて強引に逆走していく。捕まれわんわん。
 今日、旅行人への来がけに、お巡りさんが立っていた。そこはコインパーキングからつづく路地で、50メートルほどしか離れていない。実は、わがご近所さんの「一時停止の怠り」でキップを切られる名所で、旅行人の編集長もスクーターで一度切られた。一時停止が二度つづく路地で、蜘蛛の巣に引っかかる虫のように、よく捕まっています。罰金の稼ぎ場所です。
 来るクルマもなかったので、「すぐそこのコインパーキングの出口に、その路地が一方通行の道である標識があると間違える人がなくなって、果ては違反者もいなくなります」と提案してみた。
 したらば、「そういう場所はあちこちにあります」って返された。わたしはその「あちこち」に関心ありません。「近所のコインパーキングの出口」の話をしています。
 わたしの提案に、その若いお巡りさん、あー言えばこー言うってな調子で、息子に逆らわれた母の気分になってきた。
「私には設置する権限はありません」ときた。
 そんなの判ってらいっ! ぺーぺー顔丸出しだのあんたに設置を頼んでなんかいない。上に伝えろっ! 市民の声を上に伝えるのも、ぺーぺーの仕事だろっ!
 なんの因果でわたしはこんな路地で、あんたと言い合いをせねばならぬのだ。いつも罰金の稼げるここにしか立たず、なぜ角を曲がったあそこの注意をはらわぬのだ? えっ!?
 と、まあ、今日は出社前から気分が悪い。提案も声も受け入れる度量のないお巡りを、路地に立たせるな。
 ふ〜っ!