むかし話を語り。

 寒い! って言ってどうなるモノでもありませんが、今年の東京は今世紀でいちばん寒いっ!と聞きました。そういえば、1月の終わりでしたが、夜に洗って乾ききらなかった洗濯物を朝早く外に出したら、固まってしまった。あれは、凍ったとみてるんだが、どうだろう?
 いやはやいやはや、そんな寒い日がつづく東京の渋谷を土曜の夜に歩いた。もうとっくのことですが、あそこは異国ですね。
 深夜渋谷国の住人たちの話す言葉は、テレビで聞く若者コトバとはまた違った音をしているように聞こえました。もうずっと昔のことになってしまいましたが、実はわたしだってあそこの住人だったわけで、それはもうあれこれ30年も前になってしまったんだなぁ・・・と、浦島タロコ気分。
 当時のおじさま&おばさまたちは、わたしたちが話すコトバをこんなふうに聞いていたのでしょうか?
 そういえば、「むかつく」という表現にいい気分のしないわたしの耳ですが、わたしの口は「アタマにくる」と言い放つ。友人の父はその表現に「腹がたつ」そうだ。
 まあ、いいや。
 その渋谷の夜の会食で、向かいに座った女性に「今まで食べたモノで、どこの料理がいちばん美味しかったですか?」と訊かれた。う〜む、久しぶりの質問です。食べ物に興味のないわたしにそんな質問を。だけど久しぶりのことだったので、懐かしい気分だった。
 では、答えねばっ!
 今さら南インドのカレーっていうのもなんだしなぁ・・・。
 記憶を探って出てきた料理はイランのチェロケバブ。1カ月つづいた水下痢でちょっと痩せかけていたわたしを、5キロも太らせた料理だった。
 どんな料理ですか? と訊かれたので説明したが、ちっとも美味しい料理だってコトを納得させられなかった。次ぎに思いついたのは、カシュガルのハミ瓜。これは料理じゃないけれど、コレを抱えてバスに乗り込んだり、夜の宿でみんなで分け合って食べた。どんなものかと訊かれて「シャーベット状のメロン」と説明したが、やはりこれも美味しさを伝えられず、失敗に終わった。
 それならば、エジプトとアルジェリアのニンジンジュース。これも料理とは言い難いが、ジューサーにニンジンを次々と投入し、氷でキンキンに冷えたニンジンジュースの甘味は、風呂上がりに飲むコーヒー牛乳のようにヘブンな味だ。それにね、イランでは朝食にはたいていニンジンジャムがあるのですよ・・・とも付け加え、サハラ砂漠に持ち込んだニンジンは、それはそれは美味しかった・・・も足した。
 やはり、これも失敗だった。でもね、ついこの間まで、語り飽きられていたようなこんな話を、判らないって顔されて聞いてもらって新鮮な気分になった。『旅行人』の休刊で「旅行人と一緒にすごした年月は、自分の青春だった」というような手紙を何通もいただいた。おばさんの年になって、20代30代に経験した旅の話を語ることは浦島太郎級のむかし話のようで、この先、おばあさんの年になったら、そうだ、20世紀を語る歴史級の話になるのだから、今からわくわくする気分であります。