今夜なに食べる?


 机の周辺の環境が慌ただしく変化し、適応に苦労を強いられている。

 変化を楽しめる時がある。楽しいコトに感じることもある。が、ぜーんぶひっくるめてそうじゃないって時もコトもある。
 最近のコンピュータ(仕事で使ってるヤツ)は、わたしには理解の許容範囲を超えたかなりオーバースペックであります。G3からレパードへの移行は、よその星へワープして、言葉のわからない星の地図を手渡されて、どこに行けばいいのか、なにが書かれているのか、いったいぜんたいどこの地図なんだコレは? ここはどこ? 迷子の子猫ならぬ迷子の子豚なわたしは、ひとつひとつに手間取って、なかなか前に進めぬ。
 だけど、きれいだ。世界はこんなに美しく成長していたのか。


「赤身の刺身にラードを塗って食べると大トロの味になる」って、数日前の朝のテレビでやってた。行きつけの魚屋でその話をすると、「そうだよ」って言われて、驚いてはもらえなかった。
「安い中落ちはね、脂身の挽肉に漬けこんでるんだよ。だから、サカナ食べてるつもりが、肉を食べさせられてるってことがあるんだよ」って、サカナ事情の当たり前のお話風に魚屋のお母さんは言うのだ。
 えっ、そうなの? 知らなんだ。
 街角でラードを塗ったマグロの刺身を食べさせられた人たちは、「コレは何だ?」の問いに「トロ」って答えていたし、トロの味を楽しみたいだけなら、それでいいんだな。

 冷たい麦茶に牛乳を入れて飲むとコーヒー牛乳、もしくはカフェオレの味がする(そうだ)。数年前になるが、やはり街角で飲まされていた人たちは一様に、カフェオレとかコーヒー牛乳って言ってた。旨いかどうかは知らないが、テレビで見るかぎり、顔をしかめる人はいなかった。

 大学の学食にあったイチゴ味牛乳、目をつぶってメロン牛乳と思って飲むとそうも思えた。これを大発見とし、ひとつでふたつの味、二度おいしい!……とわたしはしていたのだが、社会人になって友人たちにそう言うも誰も信じてくれなくって、試してももらえなかった。それ以前に、わたしの美味しいの味覚を信じるものはおらんのです。
 ちなみに、クラマエの味覚も友人たちの間では「当てにならないもののひとつ」と認識されている。
 先日、用事があって渋谷に行った。ちょっと早めに着いちゃったんで、チェーン店のカフェに入ったのだが、そこのコーヒーを口にするなりそのクラマエが「マズイ!」って言うのだ。こらこら、もう少し小さな声でお言い。
「煮詰まってるのか?」と訊いても「いいや」。「ファミリーレストランのおかわり自由のコーヒーみたいに薄いのか?」と訊いても、「いいや」。とにかく、「マズイ」の一点張り。恐る恐る飲んでみたが、やはり得も言われぬ不味さだった。
 マグカップサイズで170円。安いからしかたがないのか、あのクラマエにして「もう少し金を出すから旨くしてくれ」と言わしめたコーヒーだった。
 くわばらくわばら。

 マンガ本を買った。うちの相田さんから借りて読んでいたものでしたが、マンガの中に出てくる料理が簡単で美味しかったので手元に置いておきたかった。それで、本屋で「作家の名前はわからないのですが、『モーニング』で連載されていた『今夜なに食べる?』ありますか?」と訊いた。店員の方は、なぜか45度ほど首を傾ける。そして「う〜む」を3回ほど唱えてから、「それは、よしながふみさんの『きのう何食べた?』じゃないでしょうか?」と。
 おほほ……似てるけど、違っちゃったわね。でも、言わせてもらえば、きのうのコトより今夜の方が重大だと思うのだが。ののちゃんとこのお母さんだって、いつもそう言ってるじゃない。
 マンガの中でゲイのカップルの片方が、せっせとお料理する。美しい体型を維持するために。そんな彼の手料理が披露されていて、献立は「安い!」がモットー。