サッディヤ

「ビールを飲みに来たんだけど・・・」

 日曜日の昼、大勢の客と相席させられた男性の前にバナナの葉を摸した紙皿が置かれ、ご飯を盛られてヴェジカレーをよそられ、わたしの前でスプーンでご飯をすくって食べている。
「このカレーは手で食べる方が美味しそうですね」とわたしに言う。「妻はそうやって食べます」と、ぼそぼそ呟きながら、マンゴジュースも飲んでいた。
シンガポールでインドのカレーを食べたことはありますが、インドにはまだ行ったことがありません。ここにビールを飲みに来たんですよ、それなのに座ったらカレーを出されて・・・」


 よくわからないのは、カレー屋にビールを飲みに来るという感覚だ。ビールを飲まないわたしにはわからないが、それはビール好きの嗜好なのでしょうか? タンドーリチキンとかサモサとかカバブってのが、おつまみになるのでしょうか? 

「ほほーっ、それじゃぁ今日は得したんだか損したんだかわからないってとこですね」と、わたしは向かいに座るそのオトコに答えた。
 それについてのコメントはなし。


 8月23日、「働くインド人」のサッシーのカレー屋ケララバワンに行ってご南インド料理を馳走になってきた。
 この日のサッディヤというのがお祭りなんだかお祝いなんだか、そのあたりのニュアンスはよくわからないが、毎年このあたりの日曜日に彼のお店の開店を祝って、店主サッシーの大盤振る舞いが恒例になっている。350人分のヴェジ・ミールスが用意されて、まあ、タダで食べられるってことです。
 お祝いされる方がご馳走するってのも、ちょっと不思議な感じがするが、そのあたりを奥さんの流水りんこさんに訊ねたら、「インド人だから・・・」なんだそうだ。

 ふ〜ん、インド式なんだ。

 そういえば、この日のケララバワンはコルカタとかアムリッツァのゴールデンテンプルなんかで無料の食事が配られたりする風景に似ていた。グジャラートの田舎でナウラトリの祭りでも広場でみんなしてお祝いの食事がされていたけど、お祝いと大勢で食事をするってのはインドではセットなのかも。

 で、向かいに座っているビールを飲みに来た男性がレジのあたりをちらちら盗み見しつつわたしにささやく。
「だれもお金を払っていないみたいなんだけど、どうなんでしょう・・・」

「知らなかったのですか? 今日はサッディヤというお祝いで、あなたの食べているヴェジ・ミールスはタダなんですよ」
「えっ!」
「だから言ったじゃない、あなたはラッキーだったって」

 食べ終えて店の前で流水りんこさんに挨拶をしていると、やはりサッディヤを知らずにやってきたヒトがいて、予約の隙間に入れてもらってご馳走になれたラッキー客がいた。

↓とても美味しかったヴェジ・ミールスとマンゴジュースとライスプディング(?)